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2月29日、冷たい小雨の中で僕はこの車に出会った。
左のサイドミラーは転げ落ち、リアスポイラーの色は褪せ、日に焼けた後部シートは灰色を通り越して白くなっていた。使い込まれたシフトノブとシフトブーツに走った裂傷が痛々しかった。
さらにこれは「いわく付きの車」だった。
しばらくすればこの車は廃車処分を受けてそのままスクラップになってしまうらしかった。
僕は色あせたボンネットに手を置いて車を見つめた。
こんなボロボロな姿になっても、車というのはここまで美しいものなのか。
発売されてから15年の歳月が流れて、「過ぎ去った未来」と呼ばれて、それでもここまで美しいものなのか。

「まだ、走れるさ」
「まだ、大丈夫さ」
「行こうぜ……」
「どこへ? そうだな。どこかへ」

シンパシーなのか。
まるでこの車はそう語りかけてきているような気がした。
この車となら、どこへでも行けそうな気がした。



欠陥車だと知りつつも。
カッコだけだと知りつつも。
それでも僕は、この車を選んだ。